Spontaneousとしての自由

インプロを学ぶことの半分は自由について学ぶことだと思う。だから僕はよく自由について考えているけれど、そこでイメージしている「自由」は“Free”よりも“Spontaneous”に近い。

“Spontaneous”はインプロをする時のキーワードのひとつであり、アイデアを頑張って考え出そうとする状態ではなく、自然に浮かんできたものを素直に表現している状態のことを指す。

Spontaneousはインプロ独自の用語ではなく、普通に辞書に乗っている英単語である。辞書ではスポンテニアス・スポンティニアスと表記され、「自然発生的」「自発的」といった訳語が載っているが、実際に日本語にするのは難しい英単語だと思う。

個人的には、Spontaneousは「自由」という意味だと考えている。ただしそれは西洋的な意味における自由ではなく、東洋的な意味における自由として。

「自由」の英単語として一般的な“Free”には、「○○からの自由」という考え方が含まれている。例えば“Smoke Free”は喫煙可という意味ではなく、禁煙(煙からの自由)という意味を表す。ここにはさまざまな束縛から自由を勝ち取ってきた西洋人らしい考え方が読み取れる。

それに対して、日本語の「自由」は本来は仏教用語であり、そこには「自らに由る(おのずからによる)」という意味がある。常識や習慣にとらわれず、本当の自分から出てくるものが自由であるという考え方だ。そしてこれはSpontaneousの意味ととても近いものである。

舞台の上のおける自由とは、FreeではなくSpontaneousだと思う。それは制約がないことではなく、制約がある中でもいきいきと生きられることだ。

これはアメリカでブロードウェイ・ミュージカルを見た時に強く感じた。ミュージカルの演技はとても制約が強く、言うなれば「毎日同じ演技をする」ことが求められるものである。しかしそれでもブロードウェイの俳優たちはいきいきと演じている姿が印象的だった。おそらく俳優それぞれが自分の中で喜びやチャレンジを持って演じていたのだと思う。

インプロにおける自由もこのようなものだと思う。インプロは即興だからといって自分勝手にやるとうまくいかない。そこではパートナーとの協調が求められる。しかしだからといって自分を抑圧する必要もない。パートナーと協調しながら、同時に自由であることもできる。

インプロで目指す自由とは、そのような自由なのだと思う。

1985年横浜生まれ。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において300回を超えるワークショップを開催している。2017年にはアメリカのサンフランシスコにあるインプロシアターBATSにてワークショップおよびショーケースに参加。またアメリカのインプロの本場であるシカゴにも行き、海外のインプロ文化にも触れる。 →Twitter