インプロの基本をめぐる冒険

僕の経験上、インプロのワークショップをするときに「インプロとはこういうものだ」というスタンスで臨むとあまりうまくいかない。そうではなく、「僕はインプロをこういうものだと思う」「僕はこういうインプロをしたい」というスタンスで臨んだほうがうまくいく実感がある。

先日群馬へワークショップに行ったときには、今までで一番このスタンスでワークショップに臨むことができた。ワークショップの参加者たちはショーを控えていたこともあり、とても熱心に質問してくれた。それに対して「僕はこうしてきた」「僕はこう考えている」というふうに答えることができた。そこにはとてもいい風が流れていたように思う。

キース・ジョンストンは86歳になった今もインプロを教えているが、それでも「私はいまだにインプロの教え方が分からない」と言う。そして「もし分かったら教えるのをやめる」とも。

だからインプロをはじめて10年程度の僕が分からないのも当然だし、僕もまた何十年経っても分からないのだろう。

同じことはもっと大きく、演劇やアートというものにも言えるだろう。演劇をやっている人たちは演劇が分かっているからやっているわけではない。演劇を分かりたくて、やりたい演劇をやりたくてやっているのだ。

アーティストの仕事は答えを出すことではなく、問い続けることだと思う。人間には答えを求める心理があるから、「インプロとは(演劇とは・アートとは)こういうものだ」と言いたくなる。しかしそれに対して「本当にそうだろうか?」と問い続けることが必要なのだと思う。もしそれをやめてしまったら、アーティストは「卒業」だろう。

さて、僕は明日からベーシック・インプロワークショップをはじめる。これはインプロの基本を扱うワークショップだが、そこには「インプロとはこういうものだ」と言いたくなる、もしくは言わなければいけないような力が働く(「教科書的なことを言っておこう」みたいなね)。

しかしそう言ってしまってはワークショップが正解探しの場所になってしまう。だからこのワークショップは「僕はインプロとどのように出会ったか」「そして何を面白いと思ったのか」というふうに進めていきたい。それが結局は基本になっているはずだし、僕にとっては初心を思い出すことにつながるだろう。

どうやら週末には台風が迫っているらしいが、今のところの天気予報を見る限りたぶん大丈夫だろう。雨にも負けず、風にも負けず、答えも分からず、だけど進んでいける。そういう自分に僕はなりたい。

ベーシック・インプロワークショップ、まだ若干名参加者を募集しています。直前まで受け付けていますので、ご興味あるかたはどうぞお申し込みください。ともに新鮮な気持ちでインプロを学んでいきましょう。

1985年横浜生まれ。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において300回を超えるワークショップを開催している。2017年にはアメリカのサンフランシスコにあるインプロシアターBATSにてワークショップおよびショーケースに参加。またアメリカのインプロの本場であるシカゴにも行き、海外のインプロ文化にも触れる。 →Twitter