合気道と即興

そういえば先日「気で投げる」ということをするワークショップに行ってきた。気で投げると言っても超能力のようなものではなく、全身を連動させることによって生まれる力で投げようという比較的分かりやすい内容。投げられる方もその力に抵抗するのではなく、むしろ流れに乗ってみようというもの。

投げるにしても投げられるにしても、うまくいっている時とうまくいっていない時の違いがはっきりと実感として分かるのが面白かった。相手を投げることに対する恐怖があるとうまくいかないし、相手を投げることに対する欲があってもうまくいかない。ただ相手と一緒にいて投げればいい。

そしてその違いは傍から見ていても明確なのが興味深かった。そこには美しさと茶番くらいの差があった。

これはちょうど演技において本当にやりとりをしている時とやりとりをしている「ふり」をしている時の違いと非常に近く、ストーリーテリングにおいて思い浮かんだことをやる時と考えたことをやる時の違いとも近いと思った。

インプロでは感情やアイデアを使えば即興をしていなくてもそれなりに面白くなってごまかせてしまうけれど、気で投げるというワークはシンプルゆえに本当に自分が今ここにいるかを捉えることができていいなぁと思った。

このワークショップよりもさらに一週間前には栃木にインプロを教えに行った。そこでは「三人一緒に立つ」というワークをやった。「座っている三人が一緒に立つ」というこれまたとってもシンプルなワークだけど、本当に即興で立つことができた瞬間は会場が一体になるくらいの面白さがあった(逆に故意に立ったときは茶番以外のなにものでもなかった)。

合気道にはデタラメな力があるように、即興にもデタラメな力がある。インプロをしていると何かいろいろやらないといけないような気がしてくるけれど、もっとシンプルに即興の力を信じてみてもいいのかもしれないと思った。

美しさと茶番の間をうろうろしよう。

1985年横浜生まれ。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において300回を超えるワークショップを開催している。2017年にはアメリカのサンフランシスコにあるインプロシアターBATSにてワークショップおよびショーケースに参加。またアメリカのインプロの本場であるシカゴにも行き、海外のインプロ文化にも触れる。 →Twitter