インプロにおけるフィードバックの出し方・受け方

最近はインプロを教えるときに「正直にフィードバックを出す」「シンプルにフィードバックを受け入れる」ということをかなり重視している。特にディレクションを教えるときにはプレイヤーからのフィードバックがとても重要で、それは僕が教えることよりも重要なものだと思うようになった。

また、フィードバックで起きている現象はインプロで起きている現象と同じだとも思うようになった。正直にフィードバックできない人はインプロも正直にできていないし、フィードバックで相手にいい時間を与えられない人はインプロでも相手にいい時間を与えられていない。

だからフィードバックの仕方を学ぶことはインプロを学ぶことにつながる。ここでは最近心がけているフィードバックの出し方、受け方を簡単にまとめてみようと思う。(今回は分かりやすくプレイヤーとディレクターに分けているが、もちろんプレイヤー同士でもフィードバックはできる。)

フィードバックの出し方

プレイヤーはディレクターに困ったこと・嬉しかったことを正直にフィードバックする。そうすればディレクターはよりプレイヤーを助けられる・よりプレイヤーを喜ばせられるいいディレクターになっていく。

シーンをやっていた時の意図を解説するようなフィードバックは論理的には正しくても、相手を成長させるフィードバックとしてはあまり要領を得ない。それよりも困ったこと・嬉しかったことを端的に伝えたほうが相手の成長のためになる。シーンをどうやっていたか、ではなく、自分自身がどうなっていたかをフィードバックする。

困ったことをフィードバックする時はハッピーに伝えることが大事。「靴下の左右間違えちゃった!」と同じようなテンションで「自分が誰だかよく分からなかった!」と伝えればいい。それは相手にとっては落ち込ませなくて済むという意味があるし、自分にとっては困ること、つまり失敗することをオーケーにできるという意味がある。

困ったこと・嬉しかったことを正確にフィードバックしようとすることは、自分自身の状態に気づくきっかけにもなる。多くの人は、はじめのうちは自分がシーンの中でいつ困っていたか・喜んでいたかということを認識できない。それはシーン中にもそのときの自分の状態が分かっていなかったということ。しかし、フィードバックを繰り返すことでだんだんと認識できるようになっていく。

シーン中に困ってもそれに気づけずにいると、なんとなく続けてもっと苦しくなっていく。また、何かに喜んでいてもそれに気づけずにいると、やはりなんとなく流して元通りになってしまう。困ったことや嬉しかったことに気づけるようになれば、困ったときには方向修正ができるし、嬉しいときにはそれを使って遊べるようになる。

フィードバックを出すことは自分をオープンにすることであって、相手に何かを求めることではない。自分が困ったこと・嬉しかったことに対して相手がどう対応するかは相手の領域。どうしてほしかったかを伝えてもいいけれど、実際にそれをするかは相手の選択。全部自分が決めてしまったら人生はつまらない。

結局のところ、フィードバックとは自分をオープンにすることで相手に貢献しようとすることで、それはインプロと同じこと。自分の意見を押し通しては相手に貢献できないし、本当は楽しくなかったのに「楽しかったよー……」と言うことも相手への貢献にはならない。

フィードバックの受け方

フィードバックを受ける側はそれに一喜一憂しないことが大事。大喜びするしたり落ち込んだりすると、次にやるときに「あの時みたいにうまくできるだろうか……」「またあの時のようになっちゃうんじゃないか……」と怖くなる。また、フィードバックをもらって落ち込む人はだんだんとフィードバックをもらえなくなっていく。

フィードバックを受けて学ぶことは、ボールの投げ方を学ぶようなもの。右に投げすぎたことを知れば左に投げるようになるし、左に投げすぎたことを知れば右に投げるようになる。そうしているうちにだんだんとコントロールが良くなっていく。投げっぱなしで自分のボールがどこに行ったかを知らないままではうまくならない。しかし、自分のボールが当たったからといって大喜びしたり、自分のボールが外れたからといって落ち込んでいてもうまくはならない。それよりもさっさと次のボールを投げてまたどこに行ったかを知るほうが結果として早く成長できる。

フィードバックを受けたからといって、一発でそれを直そうと思うと学ぶのが難しくなる。「右に投げすぎたから、これからは絶対に右には投げないようにしよう」「今度は左に投げすぎたから、これからは絶対に左には投げないようにしよう」としたら、もうボールを投げることはできない。

フィードバックを受けた次は正しいことをやろうとするのではなく、むしろ新しい失敗をしにいこうと思うくらいでちょうどいい。その結果としてまた前と同じような失敗をしても構わない。その中で自分が学んでいることを信じてあげる。

フィードバックの出し方・受け方を学ぶことは普段の生活にも適用しやすいので教える価値が高いことだと思っている。しかし、実際に教えてみると多くの人はフィードバックがすごく苦手だし、そしてすごく恐れている。だから指導者は建設的なフィードバックの仕方を教える必要があるし、なによりフィードバックが行われることを勇気づけていく必要がある。

1985年横浜生まれ。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において300回を超えるワークショップを開催している。2017年にはアメリカのサンフランシスコにあるインプロシアターBATSにてワークショップおよびショーケースに参加。またアメリカのインプロの本場であるシカゴにも行き、海外のインプロ文化にも触れる。 →Twitter