「インプロバイザーのためのワークショップ」ふりかえり

1月4日(土)・5日(日)は「インプロバイザーのためのワークショップ」でした。参加してくださったみなさま、どうもありがとうございました。新しいワークショップだったので自分でもどうなるかとドキドキしていましたが、結果的に非常に学びの深い時間となりました。

このワークショップは先日芸劇で参加した「ファシリテーターのためのワークショップ」にインスパイアされたワークショップです。僕がインプロを教えるのではなく、参加者たちが自ら気づき、学び合うワークショップを目指しました。ワークショップを終えて、その目標は僕の予想を超えて達成されたと感じています。

3つの心がけ

今回のワークショップでは、まず最初に以下の3つの心がけを参加者にお願いしました。

  • 正直でいる
  • 言語化する
  • Respect

正直でいる:今回のワークショップは僕がインプロを教えるものではなく、参加者が自主的に学んでいくものです。そのためには自分に正直でいることが前提となります。特に自分が何にインスパイアされて、何にインスパイアされないかに対して敏感であるよう心がけてもらいました。

言語化する:インプロは究極的には身体が学んでいくものですが、今回のワークショップではあえて「言語化する」ことを重視しました。しかも「インプロの教科書」から言葉を持ってくるのではなく、本当に自分が思っていることを言葉にすることにチャレンジしてもらいました。

Respect:ワークショップでは正直であってほしいですが、独善的であってほしくはありません。そこで、たとえ自分とは違う考えがあっても否定するのではなく、受け入れ、そこから学ぶことを意識してもらいました。

ちなみに「Respect」の語源はRe(再び)+spect(見る)です。「こうだ」とすぐに決めつけるのではなく、「もしかすると別の見方があるのかもしれない」と立ち止まってほしい。そんな願いを込めてRespectという言葉を使いました。

これらの心がけはワークショップ全体を貫く大きな柱となりました。今回のワークショップが深まった大きな理由に、これら3つの心がけを言語化したことがあると思っています。最初に言語化することで、僕(ファシリテーター)も参加者もぶれずに進んでいくことができました。

考えが違うからこそ学べる

1日目の午前中には「Yes, No, Maybe, Idea」というゲームを使い、インプロへの考え方をお互いにシェアしました。これは部屋の四隅を「Yes」「No」「Maybe」「Idea」のゾーンに分け、あるステートメント(質問のようなもの)に対してどこかのゾーンに移動するものです。このゲームは「ファシリテーターのためのワークショップ」で学びました。

ステートメントは例えば次のようなものです。

  • インプロバイザーは台本演劇の経験が必要である
  • インプロバイザーは自分よりもパートナーを大事にする
  • 私は人にインプロを教えていい
  • 私のインプロは私の人生を表現している

それぞれのステートメントへの回答は分かれ、参加者たちはなぜその回答をしたのかをお互いにシェアしました。ゲームとしてはシンプルなものですが、その中で行われるやりとりは非常に豊かなものとなりました。

正直であること。それを言語化すること。そして違いをRespectすること。そうすれば違う考えからも学べる。むしろ考えが違うからこそ学べる。それを実感する時間でした。

理想のインプロバイザーになるために

1日目の午後は「理想のインプロバイザーになるために」というテーマで進めていきました。自分が理想のインプロをするために「自分は何をするか」「相手に何をしてほしいか」を明確に言語化してからインプロをする、という実験をしました。

そして実験をしたあとには「それが本当に役に立っていたか」「自分や相手をインスパイアしていたか」などの観点からふりかえりを行いました。

実験は2周行いましたが、1周目は「どこかで聞いたこと」が並んでいたのに対し、2周目は「自分が試したいこと」が出るようになり、それによりプレイヤーの個性が生まれていました。

付き合いの長いプレイヤーでも「あぁ、この人はこういうインプロがしたかったんだ」という発見があったのがとても印象に残っています。そして本人が本当にやりたいインプロは(たとえ意味がよく分からなくても)どれも興味深いものでした。

理想のインプロショーを作るために

2日目は「理想のインプロショーを作る」というテーマで進めていきました。全体を2チームに分け、各チーム本当にやってみたいインプロショーを企画し、その中の30分を実際にやってみました。

ショーを見せ合ったあとには、「Two Pictures」という方法を使ってふりかえりを行いました。相手のショーを見ていて「良かった瞬間」「もっと良くなりそうな瞬間」を身体を使って写真のように再現するものです。さらに「もっと良くなりそうな瞬間」はどうしたら良くなるかを考え、実際に試してみました。これも「ファシリテーターのためのワークショップ」で学んだ技法で、具体的かつ建設的なふりかえりの方法です。

また、それぞれのチームで「ショーの企画にインスパイアされていたか」「(設定した)会場のサイズに見合ったショーができたか」「(設定した)チケット代に見合ったショーができたか」などの観点からもふりかえりを行いました。

ショーは2回ずつ行いましたが、どちらのチームも1回目のほうが良かったところ、2回目のほうが良かったところがありました。

インプロショーは生き物だと思います。同じような企画でやっても、うまくいく時といかない時があります。その違いは何なのか、最後にはそれを言語化してもらいました(ファシリテーターとしては、ここにもう少し時間を取れたらよかったという反省があります)。

また、僕はファシリテーターとして両チームの企画の様子・ショー・ふりかえりを見ることができましたが、それによってショーがうまくいく理由といかない理由が見えてきて、僕にとっても大きな学びとなりました。

ファシリテーターのあり方について

今回のワークショップでは、ファシリテーターとして「待つ力」が試されました。進むべき方向が決まっているなら、教えたほうが早いと思います。しかし今回は進むべき方向自体を発見していくワークショップだったので、そこはじっと待ちました。すると僕が思ってもいなかったような可能性が見えてきて、それはとても興味深いものでした。

また、今回のワークショップは「教えた感」が無いために、不安になるときもありました。しかし参加者の感想を見ると、これまでのワークショップにはないほど参加者が学んでいることが分かりました。教師の「教えた感」と学習者の学びは一致しない。それは薄々気づいていたことではありましたが、今回はそれを大きく実感しました。この経験は僕の今後のワークショップにも影響を与えていくでしょう。

ワークショップの今後について

「インプロバイザーのためのワークショップ」は1回ぽっきりのワークショップの予定でしたが、非常に学びの深いワークショップとなったのでまたやりたいと思います。とはいえ、毎月やるようなワークショップではないので、半年後くらいにまたできたらいいなという感じです。インプロバイザーたちが合宿のように集まり、お互いに学び合い、そしてまた進んでいく。そういう場所にできたらと思います。

今後のワークショップにご興味ある方はニュースレターにご登録ください。ワークショップ情報を逃さず得ることができます。(すでにメールが届いている方は登録しなくて大丈夫です。)

また、地方のインプロ団体などでこのワークショップに興味のある場合には、出張ワークショップもできます。教えてもらって終わりではなく自分たちで学んでいけるようになるので、地方でのワークショップとしておすすめです。最低6名から開催可能です。

今回のワークショップを行ったことで、インプロバイザーとして新たな広がりを得ました。また、今年の目標である「ひとつひとつのワークショップの質を高める」ことも着々と進んでいると感じます。

このワークショップは「新年にふさわしいワークショップです」と告知していましたが、僕の新年にとってもふさわしいワークショップとなりました。果たしてこの一年はどうなるでしょうか。どうぞお楽しみに。

1985年横浜生まれ。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において300回を超えるワークショップを開催している。2017年にはアメリカのサンフランシスコにあるインプロシアターBATSにてワークショップおよびショーケースに参加。またアメリカのインプロの本場であるシカゴにも行き、海外のインプロ文化にも触れる。 →Twitter