「もっとインプロがやりたくなるふりかえり」がいいふりかえり

前回「ディレクション」をテーマにワークショップをやって、その時にふりかえりを丁寧にするということを少しやってみたら、ディレクションとふりかえりは似ているということを思った。

その場でプレイヤーをインスパイアするのがディレクションで、あとから(自分を含む)プレイヤーをインスパイアするのがふりかえり。「ふりかえり」というといわゆる「反省」をしてしまいがちだけど、それが本当にインプロを良くしているのかは検討が必要だと思う。

例えば「自分がいかにインプロをうまくできないか」というふりかえりは、一見するとインプロを良くするための行為に見えるけれど、実際には自分が変わらないようするための行為だと思う。「自分はこれができない」と決めることで、自分が変わる可能性を遠ざけている。

他にも家族関係や学校教育といった大きな問題を持ち出すのも、そのほとんどは自分が変わらないようにするための方法だと思っている。家族関係や学校教育の問題を変えることは困難だから、それを持ち出すことによって今の自分を変えることも困難にしている。

最近はアドラー本(『嫌われる勇気』など)を読んだこともあって、あまり問題の原因を重視しなくなっている。「どうしてそれができないのか」について考えるのではなく、「どうしたらそれができるのか」を考えればいい。もちろんその過程で原因を知ることが必要ならすればいいけれど、原因を知ることで満足するのではなく、それをどう変えていくかが重要なのだと思っている。

インプロに限らず、ふりかえりをするときは「結局そのふりかえりは今ここにある現実を良くしているのか?」という視点が重要だと思う。今ここにある現実を良くしていない「気づきがありました」「これからに活かそうと思います」は、結局は「自分は変わりたくない」の変奏曲に過ぎない。

「私にはこういう過去があって……」と涙するようなドラマチックなふりかえりはその様子ほど人を変えない。それよりも、「あ、その手があったか!」とシンプルに前に進んでいくふりかえりの方が人は変わっていくと思っている。

安全な場所があってインスパイアされるものがあれば、人はそれをやってしまう。そうしているうちに人は自然と変わっていく。ふりかえりとはそういうサイクルを生み出すものなのだと思っている。だから今の僕は「もっとインプロがやりたくなるふりかえり」がいいふりかえりなのだと考えている。

インプロは理論としてはかなり深い話にすることもできる。しかし、実践にはいつも軽やかさを持っておきたい。軽やかさが深さを生み出すことがアートの面白さであり、人生の面白さだと僕は思っているから。

1985年横浜生まれ。東京学芸大学に在学中、高尾隆研究室インプロゼミにてインプロ(即興演劇)を学ぶ。大学卒業後は100を超えるインプロ公演に出演するほか、全国各地において300回を超えるワークショップを開催している。2017年にはアメリカのサンフランシスコにあるインプロシアターBATSにてワークショップおよびショーケースに参加。またアメリカのインプロの本場であるシカゴにも行き、海外のインプロ文化にも触れる。 →Twitter